残業代・未払い賃金の正しい取り戻し方
退職を決めた人の多くが見落とすのが「未払い残業代」です。給与明細をよく見ると、残業代が正しく計算されていないケースは珍しくありません。15年の監督官経験から、未払い賃金を正当に請求する方法をお伝えします。
未払い残業代は「3年遡求できる」
最初に知ってほしい大事な事実:未払い残業代は、退職後3年の間なら請求できます。つまり、退職してから気づいても遅くありません。
ただし「未払い」と証明する証拠が必要です。だから今のうちに、しっかり記録を残すことが大事なのです。
残業代の計算は「基本給 × 割増率」
まず、会社が正しく残業代を払っているか確認しましょう。
残業代の基本計算式:
1時間当たりの基本給 × 割増率 × 残業時間数
例えば:
- 月給30万円(160時間の労働時間で割ると1875円/時)
- 20時間の時間外労働
- 計算:1875円 × 1.25 × 20時間 = 46,875円
重要なのは「1.25」という割増率。法律では、午後10時までの残業は「25%増」と決められています。午後10時以降の深夜労働は「50%増」です。
給与明細から未払いを見つける方法
毎月の給与明細をチェックします。確認すべき項目:
- 基本給からいくら控除されたか
- 残業代として計上されているか
- その額は「時給 × 残業時間数 × 1.25」で正しいか
多くの違法ケースは「残業代がゼロ計上」または「固定残業代という名目で、実際の残業に見合わない額」です。
証拠集めが最重要
未払いを請求するには、「その月このくらい残業した」という証拠が必須です。
集めるべき証拠:
- 勤務時間の記録:タイムカード、出退勤システムの記録をコピー
- 業務メールの送受信時刻:退勤後のメール送信が未払い残業の証拠になる
- 給与明細:5年分あると最強(未払い請求の時効は3年ですが、5年あれば状況を説明しやすい)
- 就業規則・雇用契約書:基本給と残業代の計算ルールを確認
これらを退職前に「コピー」として手元に保存することが大事です。退職後、会社から資料を取り寄せることは困難になるからです。
「固定残業代」の落とし穴
「給与に残業代30時間分を含める」という制度がある会社も多いです。これ自体は違法ではありませんが、実際の残業時間がそれを超えた場合、超過分は別途支払う義務があります。
もし毎月40時間残業しているのに「固定残業代は30時間分」という契約なら:
- 超過10時間分の残業代を請求できます
これを知らずに諦めている人が、本当に多いです。
会社に「給与計算の説明」を求める
退職届を出す前に、以下をメール で人事部に質問します。
お疲れ様です。
退職に向けて給与計算を確認したいのですが、
以下について説明をいただけますでしょうか。
・基本給から残業代の計算方法
・月別の残業時間と残業代の算出根拠
・固定残業代を含む場合、その計算方法
メールで説明いただければ幸いです。
山田太郎
メールで回答を得ることで、会社の「公式見解」が記録に残ります。その後、もし不正があれば、それを根拠に請求できます。
未払い残業代の請求方法(3ステップ)
ステップ1:内容証明郵便で請求
証拠が揃ったら、内容証明郵便で請求書を送付します。
未払い賃金請求書
上記の通り、令和7年4月〜令和8年1月の期間において、
未払い残業代 合計 ●●万円の支払いを請求いたします。
計算根拠:
別紙「未払い残業代計算書」の通り
支払期限:この書簡受取から14日以内
応じていただけない場合は、
労働基準監督署およびプロラボ等の法的手段を検討いたします。
山田太郎
ステップ2:労働基準監督署に相談
内容証明を送ってから2週間経っても回答がない場合、労働基準監督署に相談します。相談は無料です。
そこで「未払い賃金の是正勧告」を求めます。監督官がその企業に指導してくれることがあります。
ステップ3:法律専門家への相談
必要に応じて、労働弁護士に相談します。ただし、未払い残業代の請求は「計算が正確」なら、多くの場合は話し合いで解決します。
よくある質問
Q:退職後に気づいた場合は? A:3年以内なら請求できます。退職3年以内であれば、内容証明で請求可能です。
Q:会社が倒産した場合は? A:労働基準保護基金から「立替払い」を受けられる制度があります(限度額あり)。ハローワークに相談してください。
Q:請求したら報復されないか? A:退職者への報復は違法です。ただし、念のため請求前に証拠を手元に保存しておくことが大事です。
未払い残業代は、あなたの汗と時間の対価です。正当に請求する権利があります。退職を決めたら、まずは給与計算を見直してみてください。
田中 誠一
退職専門アドバイザー / 元労働基準監督官
労働基準監督署に15年勤務後、退職支援の専門家として独立。年間500件超の退職相談に対応。「正しい知識で、誰もが安心して辞められる社会を」をモットーに情報発信中。