退職届を出した瞬間に、涙が出た理由
退職届を上司に手渡した瞬間、なぜか泣いてしまった。
悲しかったわけじゃない。解放されて嬉しかったかというと、そうとも言いきれない。なんで泣いたのか、その場では自分でもよくわからなかった。
7年間、ここにいた
広告代理店に入ったのは25歳のとき。「クリエイティブな仕事がしたい」という漠然とした気持ちだけで入社した。
最初の数年はそれなりに楽しかった。夜中まで残業して、チームで作ったキャンペーンが世に出たとき——あの達成感は本物だった。
でも、30歳を過ぎたあたりから、何かが変わり始めた。
残業が増えた。チームの雰囲気が変わった。毎月の数字を追うことが目的化していって、「何のために働いているんだろう」という気持ちが消えなくなった。
去年の秋、体を壊した。原因は過労だったと思う。1週間休んで戻ったとき、デスクに座りながら「もうここには帰ってこなくていい」と初めて思った。

退職を決めてから、3ヶ月かかった
「辞めよう」と決めてから、実際に退職届を出すまで3ヶ月かかった。
理由はいくつかあった。
プロジェクトの引き継ぎ。後任が決まるまで待った方がいいという気持ち。それと——正直に言うと、「辞めた後どうするか」が全然見えていなかったことへの不安。
でも、ある日上司に呼ばれて、来年度のプロジェクトアサインの話をされた。「よろしく頼む」と言われた瞬間、「ああ、今言わなかったら一生言えない」と思った。
翌日、人事に辞表を持って行った。
あの涙は何だったのか
手渡した瞬間、上司が少し間を置いてから「そうか」と言った。
その二文字を聞いた瞬間に、なぜか涙が出た。
後から考えると、あれは「お疲れさま」の涙だったんだと思う。7年間、ここでがんばったことへの、自分への「お疲れさま」。
悲しみでも喜びでもなく、ただの、終わりの涙。
退職してから半年が経った今、フリーランスとしてちょっとずつ仕事をしている。まだ収入は安定していないし、不安もある。でも、あの日泣けてよかったと思っている。
泣けるくらい、真剣にやってきたってことだから。
さくら
元営業職 / フリーランスデザイナー
大手広告代理店で7年。32歳の春、体を壊したことをきっかけに退職。今はフリーランスで細々とやってます。退職は怖かったけど、あの決断が人生を変えてくれた。